マレーシアを象徴する首相として余りにも有名で、圧倒的な存在感を誇ったマハティール首相(94)が辞任を表明し、マレーシア国民には衝撃と動揺が広がっています。
辞任発表(2020年2月24日）の翌朝、筆者が電車で通勤していると、やけにタブロイド紙を拡げて読み入っているマレー人が多かったので、何かと思って覗いたら、このニュースをみんな注目していました。
今回のマハティール首相の辞任、その背景と影響、今後の動向などについて詳しく探ってみましょう。
1.マハティール首相とは
94歳という超高齢で首相を務める「カリスマ的」存在
マハティール氏は、御年なんと94歳という「超」高齢ながら、現役首相を務めてきたマレーシアを代表する政治家で、医師でもあります。
彼が最初に首相として政権を担った期間は1981年から2003年までの22年間。
その後も2018年に首相復帰後、今回の辞任表明を経て、2月末までは暫定首相として引き続きその任に当たりました。
日本をお手本とする「ルックイースト」政策など、マレーシア発展の最大の功労者
マハティール氏はまた、かつてのASEAN諸国が目指した欧米型社会ではなく、日本の経済成長をお手本として見習おうという「ルックイースト政策」を打ちたて、実行したことでも有名です。
そして、その長期にわたる強力なリーダーシップを存分に発揮してマレーシアの国力を飛躍的に増大させた、マレーシア最大の功労者です。
2.今回辞任の背景
今回のマハティール首相の辞任の背景には、マレーシア独特の複雑な政権構造があります。
前述したように、マハティール氏は最初の政権で22年間にもわたる長期政権を築き、様々な面でマレーシアの発展に寄与しました。その後、2003年に後任の首相（アブドラ・バダウィ氏）に政権を譲った後は、マハティール氏は表舞台から離れていました。
後任のバダウィ首相は穏健派で人気でした。
ですが、更にナジブ・ラザク首相が変わった後、様々な汚職や腐敗が問題となりましたこの腐敗を正すためとして、マハティール氏は2018年5月の総選挙に出馬し、大方の予想を裏切って返り咲きを果たしたのです。
そして就任後直ちにマハティール首相はナジブ前首相を腐敗容疑で起訴し、これを受けてマレーシア司法当局はナジブ氏の自宅から数百万ドルの現金と宝石を押収しました。
以前から「中華系」と「マレー系」の勢力争いが続いてきたマレーシア。
マレー系に近いとされるマハティール首相が、前政権による政治腐敗を一掃し、マレーシアの政治と経済を立て直すことに大きく期待しました。ところが、政権与党内では、マハティール氏の退任時期や後継者選びなどを巡って政権与党内の対立が激化しました。
こうした混乱の責任を取るために、今回の辞任を決意したというのが一般的な見方となっています。
3.今後の政権
マハティール氏は、腹心であったアンワル氏との度重なる相克・葛藤を経て、結局後継者を育てられないというジレンマに襲われました。
マハティール氏の後任首相はムヒディン氏に決定
今回、辞任後の暫定首相期間を経て、この3月からは新首相としてムヒディン前内相（72）が首相に任命されました。
ここでも、政権与野党の攻防が激しく、更に首相返り咲きを望んでいたマハティール氏は敗北。
事実上の野党代表であるムヒディン首相の就任により、政権交代が行われる見込みとなっています。
4.マレーシアが受ける影響
通貨リンギの下落や、消費、輸出の減速で低迷長期化のリスクあり
この政権交代によって国民や世界が大いに注目しているのが、影響と今後の動向です。
まず、指摘されているのが、経済への打撃です。
突然の政権交代で、政権を担う与党連合の基盤が脆弱なため、マレーシアの通貨であるリンギが下落し、消費活動や輸出が減速し、マレーシア経済が長期低迷するおそれを指摘する向きもあります。
2018年にマレーシアリンギが一時的に大幅下落した際、マハティール氏の強いカリスマ性と信頼感が、為替市場の混乱を抑えた経緯があります。
今回、そのプレミアムが失われ、輸入インフレと民間消費減速を招来する可能性が大きいと指摘されています。
新型コロナウイルス対策も、政権基盤が脆弱なので後手後手に回ると懸念されます。
貿易面では、政情不安で最大の輸出国であるインド向けのパーム油輸出回復も遅れるかもしれないと心配されています。
まとめ
見てきたように、長きにわたってマレーシアの政権を支え、マレーシア発展に寄与したマハティール首相の辞任は、短期的にみるとマレーシア経済に大きな打撃を与える懸念が大きいです。
国民や世界も不安の眼差しで今回の首相交代劇を見つめています。
2020年に先進国入りを目指すと宣言したマレーシア。
なんとか、国民が一丸となって、この危機を乗り越えていただきたいものです。
マレーシア在住者としても心からそう願っています。
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